外苑前に構えたアトリエは、都会の喧騒な雰囲気とは一線を画す静かな佇まい。
日本人では珍しい〈Maison Martin Margiela〉での経歴を持つ、砂川氏が展開する〈mister it.〉のブランド設立のきっかけや物作りの考え方など、興味深い話を聞くことができました。
話す言葉を丁寧に選んでいる砂川さんがとても印象的でした。
About / mister it.
〈Maison Martin Margiela〉で3年間メインコレクションに携わり、さらにオートクチュール“アーティザナル”のチームでデザイナーを務めた砂川卓也氏によるユニセックスブランド。
―ブランドを始めるきっかけなどあれば教えてください。
砂川:学生の頃からずっと自分のブランドを持ちたいと思ってはいたんですが、その前に自分の好きなブランドで働き、ブランドの仕組みを知りたいと思ったので〈Maison Martin Margiela〉で働きました。
〈Maison Martin Margiela〉ではキャリアなど関係なく面白いことを提案できる風土があり、その時の経験が今に繋がっているかもしれないです。
3年経って、自身のブランドをどう始めたらいいかと思った時に自分を掘り下げる作業からはじめたんです。
帰国し、実家に残っている昔の写真や思い出の物を見たり、祖父母に自分がどんな子だったかを聞いたり、自分のルーツを見つめ直しました。
でもパリへ戻り、自身のブランドを始める前にしておくことがあると思ったんです。
それは、〈Maison Martin Margiela〉でお世話になった方々に感謝の気持ちをストレートに伝えることかなと考えました。
自分ができる一番の表現方法で、思いをストレートに伝えたいと思いました。
自分のよく知っている人に向けて、その人のためだけに作る…それが最初のコレクションを作るきっかけになりました。
このコレクションを作る過程の中でとても多くの発見があったんです。
このコレクションを1週間パリのショップを貸切りにさせてもらって展示していたら、個人に向けて作った洋服なのに欲しいと言ってくれる人が思った以上に多かったんですよ。
この作り方が自分らしい…今もこの作り方を続けている始まりはそこからだったかもしれないです。
―18FWのテーマやそこに至った経緯など、教えていただけますか?
砂川:実在する人に向けて服を作ることは大きく変わらないコンセプトです。
今回のコレクションで一番初めにしたことは、DMから作ることでした。
コレクションを反対の工程から作ったらどうなるんだろうと考えたんです。
DMにはお客さんが楽しめるような仕掛けをしたいと思ってました。
当たりはずれがあったら面白い…
同じモデル1人よりも色々なキャラクターの人がいた方が面白いなぁ…
大人だけでは面白くないなんて考えている時に振り切って子供を起用しようと思ったんです。
―ご自身が作る服の見え方とかは気にならなかったのですか?
砂川:勿論見え方も意識したのですが、ブランドとしてどういう空気感・ムードを出しているかが大切だと思ったんです。
そうこう考えているうちにこんなことが浮かんだんです。
スカーフのメッセージ「ONE COIN HERO 3MINUTES」。
3分間だけ子供が思い描いているヒーロー(大人)になれる。
自分が子供だった頃、大人達をヒーローだと思った感覚…親とか、身近な人とかに憧れる感覚が新鮮だと思いました。
だから写真を撮るにあたり、子供にも大人になったつもりになってもらい撮影をしました。
―近年、東京ブランドの活躍が目立ちますが、海外ブランドに負けない国内ブランドの強みなどあれば、教えてください。
砂川:日本人らしさ、日本人の気質は強みであると考えています。
気使い・人をリスペクトする気持ち・人を喜ばせたり、楽しませる心使い。
日本人の独特の美学である「粋」という感覚が備わっていることが国内ブランドの強みだと思います。
昔からある、日本独特の文化である「粋」という言葉は、他国にこれに変わる言葉や感覚がないんですよ。
―ユニセックスブランドだと思うのですが、メンズ・ウィメンズともにどんなスタイルで着てほしいなどあれば教えてください。
砂川:基本はユニセックスですが、重きはウィメンズだと考えています。
中でもシャツはメインのアイテムで、その他のピースはシャツとコーディネートし易いようにと考えることが多いかもしれないですね。
〈mister it.〉の服を愛着を持ってずっと長く着てもらいたいと思っています。
ベーシックで仕立てがいいことも長く着てもらうための要素ですけど、自分が長く着ているものを思い返してみると、そのモノには、人からもらったとか、あの時、あの場所で着ていたとか。
服を着ていたシーンに物語があったんです。
なので、〈mister it.〉のシャツの袖にあるハートマークや襟元だけ汚れにくい素材を持ちいた点など、ちょっとしたディテールでその場に会話が生まれたり、自分の為に作られた服だったり、服に物語があって着る人にとって特別な服になれば良いと考えています。
ーエディションと取り組むことで期待することなどあれば教えてください。
自分が伝えたいことをきちんと伝えてもらえることですね。
学生のころから1人でも多くの人に知ってもらいたいと思ってました。
だから、自分たちの力ではまだまだ力不足なので、エディションを通して多くの方々に知ってもらいたいです。





















丁寧な対応をしてくださる砂川さんの人柄が、服に反映されているんだなと感じるインタビューでした。
ぜひ、店頭にてご確認ください。